年間40万件。全国1万名を超える税理士・公認会計士(TKC会員)および、その顧問先から、9年連続で増え続ける問い合わせに、TKCヘルプデスクは限界を迎えていた。繁忙期には1時間待ちが生じることも珍しくなく、人を増やすだけでは解決できない壁に直面する。「問い合わせ削減は急務」とする社長指示のもと、AIチャットボット導入の活動が2024年にスタートした。
しかし、税務・会計という「絶対に間違いが許されない」専門領域でのAI導入は、一筋縄ではいかなかった。富森部長・松島課長・福満チーフの3者が語る、製品選定の苦闘、そして繁忙期4,000件削減を実現した導入後の変化とは。
全国1万名を超える税理士・公認会計士のTKC会員、および多くの地方公共団体が活用する
TKCシステムの操作の疑問を、全面的にサポート
全国1万名以上の税理士・公認会計士(TKC会員)および多くの地方公共団体で、TKCシステムが活用され、その業務の効率化においては、もはやTKCシステムはなくてはならないものになっていた。その問い合わせ窓口を担うのが、2015年に分社化されたTKCカスタマーサポートサービス株式会社だ。
「HDI格付けベンチマーク」の最高評価『三つ星』(サポートサービス業界の国際機関であるHDIの基準に基づき、顧客視点での対応品質やサポート体制の最高水準)を毎年受賞するなど、サポート品質の高さは外部からも評価されている。富森部長が、組織の成り立ちと役割を語る。
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はじめに、TKCカスタマーサポートサービス株式会社について教えてください。
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富森部長:当社の親会社であるTKCは、「会計事務所の職域防衛と運命打開」「地方公共団体の行政効率向上」を事業目的として、1966年に創業されました。TKCは、全国の会計事務所や多くの地方公共団体をユーザーとし、主に税務、会計に関するシステムを提供してきました。これらのシステムは、今や日本の社会基盤を支えるインフラの一部として、欠かせない存在になっています。
このTKCシステムを常に最適な状態で運用し、お客様の声に迅速かつ的確にお応えするため、2015年にカスタマーサポート部門を分社化する形で誕生したのが、TKCカスタマーサポートサービス株式会社です。会計事務所向けおよび地方公共団体向けのシステムあわせて約250のTKCシステムの問い合わせ回答を行っています。これら全てのシステムにおける疑問やトラブルに的確に対応し、安定運用を支えること。お客様の業務が滞りなく進められるよう支えることが、当社の大切な役割です。
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お客様から「感謝され、信頼され、尊敬される」コールセンターを目指す
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主な業務と部門ミッションについてお聞かせください。
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富森部長:我々の仕事は、まず『正確・迅速・丁寧』に、お客様である税理士や公認会計士、地方公共団体の方々のお困りごとを解決することです。お客様の実務において、当社のシステムは欠かせないパートナーとなっています。 頻繁に改正される法律・制度や高度化するIT環境に合わせて、システムも常に進化を続けています。もちろんシステムは使いやすいことが一番ですが、度重なる制度改正への対応で、どうしても仕組みが複雑になってしまう側面があります。そうやって複雑さが増していくからこそ、それを支えるサポートの役割は、ますます必要不可欠になるでしょう。
また、現場で拾い上げたお客様の声を、迅速にシステム開発へフィードバックすることも、我々の重要な役割です。開発部門と密に連携し、システムの改善につなげていく。そうして、より信頼される仕組みを共に作り上げていくことが、TKCヘルプデスクのミッションですね。
300人体制・システムを改善しFAQを整備するものの、問い合わせは右肩上がり
年間40万件超の問い合わせに次なる一手を
人員を増やし、FAQも整備してきた。それでも問い合わせは増え続けた。特に会計事務所およびその顧問先向けのシステムにおいて9年連続で右肩上がりとなった問い合わせ件数は、2025年に年間40万件を突破。この危機的状況について、富森部長が率直に明かす。
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当時お持ちだった課題について教えてください。
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富森部長:会計事務所およびその顧問先向けのヘルプデスクには、年間で約40万件ものお問い合わせが寄せられます。最近では「年収の壁」や「インボイス制度」といった大きな制度変更がありましたが、法律や制度が変わるたび、その影響をダイレクトに受けます 。ただ、専門性が高いゆえにどうしても操作が複雑になってしまい、法改正のタイミングや繁忙期は多くのお問い合わせが発生してしまいます。
もともとは宇都宮の本社で40人ほどのヘルプデスクからスタートし、かれこれ20年が経ちます。スタッフが早期に独り立ちできるよう教育には非常に力を入れており、現在は子会社として300人近い体制で運営しています。同時に、お客様が自力で解決するためのFAQサイトも用意してきましたが、システムごとに膨大なFAQが存在するため、その中からお客様自身で正解にたどり着くことが難しくなっているという課題もありました。システムが増えれば新しいFAQを追加し、お客様からいただくお問い合わせ内容に合わせて改修もしてきましたが、FAQシステム自体は当初作成したまま、定期的な改善を行う体制は整えられていませんでした。
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TKCカスタマーサポートサービス株式会社
カスタマーサポート部部長 富森氏
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ここ数年、お問い合わせ件数は右肩上がりに増え続けており、我々もできる限りの対策は打ってきましたが、どれほど教育効率を高め現場が必死に捌いても、人を増やせばすぐに解決できるという単純な話ではありません。11月から1月にかけての年末調整がある繁忙期は特に問い合わせが多く、お客様を1時間以上もお待たせしてしまうこともあり、誰の目から見ても限界を迎えている状況でした。
どの製品も超えられなかった「正確性」という壁
理想のチャットボット探しが難航
本プロジェクトの製品選定において、実際にベンダーへの問い合わせやデモ検証を担ったのが、エンジニアとしての知見も持つカスタマーサポート部課長の松島氏だ。チャットボットありきで検討を始めたわけでもなく、たどり着くまでには長い道のりがあった。
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AIチャットボットの導入に至った背景について教えてください。
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松島課長:最初から「チャットボット」を選択していたわけではありませんでした。当初は、ヘルプデスクのスタッフ向けに作成しているFAQをお客様向けに公開する案や、操作動画を作成する案なども検討していました。その当時、チャット形式で質問を入力して回答を得る製品が普及し始めていた時期で、そうした中で社長自身のユーザー体験がきっかけになりました。あるサイトの操作に困っていた際にチャットボットが表示され、適切な操作へと誘導してくれたことで無事に解決できたそうです。私たちのFAQサイトでも、「お客様が今迷っているページや操作に合わせて、最適な回答をサジェストする仕組み」が作れないかという視点から、チャットボットが有力な選択肢として浮上しました。
ただ、お客様の行動や入力内容に基づき、その場で解決策を提示できる仕組みを自社で構築しようとすると、既存のFAQシステムとどう連携させるかという課題が出てきます。もともとFAQはそうした連携を想定して作成していたわけではないので、実現には想像以上に工数がかかることは明らかでした。私たちとしては、現在のFAQ運用以外の「新たな負担を増やしたくない」という思いもあったので、そこから外部の製品探しが始まりました。
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TKCカスタマーサポートサービス株式会社
カスタマーサポート部課長 松島氏
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主要なベンダーを5〜6社ほど検討し、私自身も入念にデモを試しました。当初は検索性を高めるためにFAQ製品なども検討しましたが、当社の膨大な情報を整理し、常に最新の状態に運用していく負荷が非常に大きいことが分かりました。
また、生成AI系のチャットボットも試してみましたが、どうしても「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」が混じってしまう...。当社のシステムは専門性が極めて高く、100%の正確性が求められるため、情報の正しさを担保できない製品は採用できませんでした。運用面と正確性、その両立ができる製品がなかなか見つからず、選定は非常に難航しました。
「AIに要約させない」という逆転の設計思想
公式FAQをそのまま提示する信頼性
難航した選定の末に、たどり着いたのが「amie AIチャットボット」だった。その決め手を聞いた。
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数あるAIチャットボットツールの中から、なぜ「amie」を選ばれたのでしょうか。
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松島課長:行き詰まった選定の中に現れたのがamie AIチャットボットで、生成AIと真逆の思想にあったことが決め手でした。会計や税務といった正確性が求められる領域において、AIのハルシネーションは、絶対にあってはならない致命的な問題です。「正しいFAQ」だけを確実な情報源として提示し、お客様が迷わず解決できること。私たちが求めていた理想の形を、amieは最も高い水準で具現化していました。
日々更新し続けている最新のFAQをそのまま学習用データとして活用できるところも大きなポイントでしたね。新たなシナリオを作成したり、メンテナンスに工数をかけたりする必要もありませんでした。
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根拠となるFAQを直接提示
要約による誤情報を防ぎ、サムネイルから正確な公式情報へ素早く誘導
(※イメージ)
繁忙期に電話の4倍の利用数、
お客様をお待たせしない「もう一つの窓口」
FAQの鮮度、精度を支えているのが、カスタマーサポート部チーフの福満氏だ。最初から順調だったわけではなく、設定の調整やFAQの見直しを重ねながら精度を高めていった。迎えた繁忙期、その成果が数字に現れた。
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実際に使われてみてどうでしたか?
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福満チーフ:導入後、目に見えて変わったのは、繁忙期にお客様へのご案内の幅が広がったことですね。電話が集中して、どうしても待ち時間が発生してしまうことに対して「チャットボットでも同様の回答が可能です」とアナウンスを流すようにしました。
直近の年末調整の時期では、チャットボットの利用数はヘルプデスクへの電話問い合わせ件数の約4倍にまで達しました。多くのお客様がチャットボットという手段を選んでくださり、もう一つの「受け皿」が機能し始めたことは非常に大きな手応えとなりました。
もちろん、最初からすべてが完璧だったわけではありません。導入当初は、検索結果の出し方だけでは十分に解決まで導けないケースもありました。amieがより的確な箇所を参照できるように設定を調整したり、FAQそのものの記述を見直したりするなど、精度を上げる改善をしていきました。
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【チャットボット利用数とヘルプデスク問い合わせ数】
お客様の「自己解決のツール」として定着
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amieは、当社の顧客管理システムと連携しています。チャットボットで解決できなかった問い合わせについては、そのまま有人対応へ引き継ぎ、対応するヘルプデスクスタッフが即座に状況を把握できるよう、この連携の構築に個別開発を依頼しました。簡単な問い合わせはチャットボットで自己解決を促し、複雑な問い合わせは有人で対応することで、お客様に負担をかけない体制を整えています。
amieの分析が既存FAQの精度まで底上げした
思わぬ好循環
amie導入がもたらした変化は、問い合わせ件数の削減にとどまらなかった。ログ分析が既存FAQの改善を促し、さらにFAQ全体の検索精度まで向上させるという、当初は想定していなかった好循環が生まれていた。福満氏が実感を語る。
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チャットボット導入による変化を聞かせてください。
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福満チーフ:amieの分析ログを見ていると、 お客様が「まずは試してみよう」と興味を持ってくださっているのを感じます。当社のシステムをご利用いただくお客様は年齢層も幅広いため、誰にとっても使いやすいチャットボットになると嬉しいですね。 また、amieによって、これまで見えにくかったお客様のリアルな「困りごと」が可視化されたことで、FAQの改修作業が劇的に変わりました。お客様がどのような言葉で検索し、どこで躓いているのかが明確になるため、忠実にFAQへ反映できるようになりました。
さらに興味深いことに、こうしたamieのログ分析からFAQを改善したことで、既存のFAQシステムのヒット率向上にもつながりました。不足していたキーワードや表現をFAQに補強したことが、結果的にFAQサイトの検索精度まで底上げしてくれたのです。これは当初想定していなかった「思わぬ副産物」でした。
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TKCカスタマーサポートサービス株式会社
カスタマーサポート部チーフ 福満氏
AIを活用した、お客様を「立ち止まらせない」サポートへの挑戦は続く
プロジェクトを統括した富森部長が、今回の成果を振り返りながら、変化し続ける環境を見据えた次の構想を語る。
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最後にこのプロジェクトの総括や、今後amieに期待することを伺ってもいいですか?
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富森部長:今回のプロジェクトでは、早急に解決すべき課題であった「お問い合わせ対応の削減」において、確かな効果を得られたことは非常に大きな成果だったと感じています。
当社では現在、時代の流れでもあるシステムのクラウド化が進み、今後も新しいシステムが誕生します。こうした環境の変化や新しい操作方法に伴って、お客様からの問い合わせもより多様なものになっていくでしょう。そうしたお問い合わせに迅速に応え続けるためには、今後はAIエージェントの導入など、より踏み込んだAI活用を進める構想を持っています。amieが私たちの理想とするサポートの形を、より高度に支えてくれるツールへと進化していくことを期待しています。
貴重なお話をありがとうございました。
※記載の組織名・企業名・役職・人物名は、取材時点のものです。