シンギュラリティ(技術的特異点)とは? AIとの関係性と併せて2045年問題を解説
2024.12.23
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AI技術が進歩したことで、LLM(大規模言語モデル)はさまざまな分野で活用されるようになりました。しかし汎用的なモデルでは、特定の業務や分野で十分な精度を発揮できない場合があります。この課題を解決するために必要なのがファインチューニングです。ファインチューニングを行うことで、モデルの汎用性を維持しつつ専門性があり、かつ精度の高い回答ができるようになります。
本記事では、ファインチューニングの基本的な仕組みや活用例、効果的に実施するためのポイントを解説します。
目次
LLMとは、膨大なテキストデータを基に学習したAIモデルの一種です。「Large Language Models」を略したもので、日本語では大規模言語モデルと訳します。
LLMは、単語や文章の文脈を解析し、適切な応答や文章を自動的に作成できるため、社内の問い合わせ対応やドキュメントの文書生成などで活用されています。テキストの作成だけでなく、データを解析して必要な情報を抽出したり、ユーザーの感情を分析したりすることも可能です。
LLMは、人間が普段話しているような自然な言語での応答、テキスト生成ができます。例えば、問い合わせ用のチャットボットにLLMを導入すれば、顧客の質問に対して正確かつ迅速な回答が可能です。他にも、社内のポータルサイトなどに導入すると、スケジュール管理やタスク提案を行うアシスタントとして、業務の効率化や利便性の向上に役立ちます。
LLMは、ビジネスや日常生活において多くの可能性を秘めた技術です。LLMは人間の単純作業の代行や情報収集、意思決定などで役に立つ存在となると期待されています。
ファインチューニングをLLMに導入することで、自社のニーズや業務特性に合致したモデルを開発でき、社内の幅広い業務で活用できるようになります。
以下でファインチューニングとは何か、なぜLLMに実装するのか、機能する仕組みを理解していきましょう。
ファインチューニングとは、既に学習済みのLLMを、特定の目的や分野に合わせて調整する作業のことです。
LLMは、与えられた膨大な学習データを基に幅広い知識を身に付けられるモデルです。ただし、特定の業務や専門分野で活用する場合は、そのままのスペックでは回答の専門性や精度が不十分な可能性があります。
特定の分野に関連したデータを、ファインチューニングでLLMに追加学習させることで、モデルそのもののレベルや回答精度の向上が可能です。例えば、医療分野向けのLLMを作りたいときは、これまで蓄積された症例データや診断情報を学習させることで医療分野の専門性が高まり、診断の判断材料としても活用できます。
LLMの学習方法の一つに、転移学習といった手法があります。どちらも特定の分野に合わせてモデルをカスタマイズする点では共通していますが、学習範囲が異なります。
転移学習とは、既に学習しているモデルを活用しながら新しいタスクに対応させるために実施する方法です。この際、追加した層のみを学習させるのが一般的です。回答精度の向上よりも、タスクを迅速に対応するのを目的としています。
一方、ファインチューニングでは、追加した層だけでなく学習済みのモデル全体の調整も行います。簡単にいうと、元々学習している知識をそのまま生かしながら、新しいタスクをこなすために必要な情報を追加で細かく学習させる方法です。転移学習がタスク管理の迅速化を目的とするのに対し、ファインチューニングは回答精度やパフォーマンスを上げることを目的としてます。なおファインチューニングの機能の仕組みについては後述します。
LLMのファインチューニングの目的は、事前学習モデルの汎用的な能力を基盤に、特定のタスクや分野で必要とされる専門性を持たせることです。
一般的なLLMは広範な知識を持っているため、幅広い業界の業務に対応できます。しかし、個別の業務課題や特殊なデータ構造に対応するには、さらなる最適化が必要です。そのため、ファインチューニングで特定のデータセットを使い、独自の業務要件や分野特有の問題を解決するための調整が必要となるのです。LLMが専門性を持つことで、専門的な目線での信頼度の高い受け答えができるようになったり、より顧客のニーズを満たす回答が可能になったりします。
またファインチューニングは、商品やサービスの開発プロセスでも活躍します。学習済みのモデルなら既に基礎が出来上がっているため、ゼロから新たにモデルを構築する必要がありません。この基盤を活用すれば、少ないデータで特定の分野に特化したモデルを作れるようになり、結果として開発で必要な試作品(プロトタイプ)が早い段階で作成できます。
このように、ファインチューニングは効率的かつ柔軟にモデルを最適化できる学習方法です。特定の分野で能力を発揮できるモデルの構築に不可欠なステップであり、企業の信頼度や顧客満足度の向上に役立ちます。
前述したように、ファインチューニングでは既に学習済みのLLMを特定のタスクや用途に合わせて調整します。あらかじめ膨大なデータで学習しているLLMには、基本的な知識やスペックが備わっています。ファインチューニングでは、そのモデルに追加で正解ラベル付きのデータ(教師となるデータ)を学習させ、必要な部分のパラメータを調整します。
例として、野菜と果物を分類できる状態だったモデルにファインチューニングを行う際の仕組みを見ていきましょう。ファインチューニングをする際は、このモデルに新しい層を組み込み、その組み込んだ新たな層に、果物の種類を認識できるタスクを追加します。例えば、「Aの写真はバナナ」「Bの写真はリンゴ」「Cの写真はオレンジ」といった具体的な果物名を識別するタスクに対応させるイメージです。
最初から野菜と果物を一つずつ学習させてLLMを作る場合、時間や労力がかかります。しかし、既に野菜と果物を大まかに分類できる状態のLLMに、果物の種類を識別できるようにするデータを入れ込むことで、短期間でバナナとリンゴの違いまで説明できるモデルを作成できるのです。ただし、ファインチューニングで最適化されたLLMは、学習データに沿って回答を生成するため、入れ込んだデータに誤りがあると、ユーザーに間違った情報を提供してしまう恐れがあります。新しい層にデータを追加する際は、誤情報が入らないように注意する必要があります。
前述の通りファインチューニングで回答精度を上げたLLMは、専門分野での知識強化に貢献します。また顧客向けカスタマーサポートの応答精度の向上にも役立つ点もメリットです。
以下で、どのような分野で活用されているのか具体例を見ていきましょう。
ファインチューニングは幅広い業界で活用されますが、特に専門性の高い情報が必要となる業界で効果を発揮します。具体的には、以下の分野・業界が挙げられます。
医療分野では、診断支援や患者のカルテの解析、画像解析など、さまざまな場面でファインチューニングされたLLMが活用されています。
例えば、あらかじめ学習が済んでいるLLMに症例データや医療記録を追加で学習させることで、今後病気がどう進行していくのかが理解しやすくなります。また患者一人ひとりのカルテと医療の研究結果を組み合わせて処理させれば、治療効果の大きさや適切なな治療法の提案が可能です。ファインチューニングは画像解析にも活用できるため、CTやMRIスキャンなどの画像診断での異常検知や診断補助にも役立つでしょう。
実際に、2023年3月に医療に特化したLLM「Med-PaLM2」がGoogleより開発されています。医療文書の要約から患者カルテの管理や整理なども効率化できるモデルであり、その能力は人間と同等もしくは人間以上といわれています(※)。
このように、医師による診断とファインチューニングで最適化されたLLMを組み合わせることで、病気の早期発見も期待できるでしょう。
※参考:厚生労働省.「生成AIの進展と保健医療における活用可能性」.
https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/001194484.pdf ,(参照2024-12-21).
金融分野では、主にリスク管理や不正取引の検知のシーンで活用されています。
金融業界はデータの正確性と専門性が求められるため、汎用的なLLMでは対応が難しいケースがあります。しかし、取引データや金融文書のデータを追加学習させることで、不正取引の検知や信用リスクの評価といった業界固有のタスクに最適化できるのです。
また市場動向を新たに覚えさせれば、最新の経済トレンドや金融データに基づいたリスク管理、マーケティング戦略の立案が可能です。将来的にはメールや文書の内容を分析し、内部監査やコンプライアンスの強化にも活用される可能性があります。
金融業界におけるファインチューニングは、業務の効率化と信頼性の向上に直結する重要なステップです。
製造分野での活用例には、品質管理の向上や生産プロセスの効率化が挙げられます。製造業の企業が市場で優位に立つには、製品の品質維持が不可欠です。
従来のLLMでの品質管理も可能ですが、そのままのスペックだと、特定の製品や工程における細かな特徴やパターンを十分に把握できない場合があります。
しかし、ファインチューニングを活用したLLMを導入すれば、製品検査が効率化されて不良品を早期発見できます。例えば、製品の欠陥画像データを学習させることで、従来の目視検査では見逃される可能性が高い細かな欠陥を高精度で検出できるでしょう。結果として製品の品質が維持できるようになり、市場での競争力も上がります。
ファインチューニングは、カスタマーサポートの応答精度向上にも貢献できます。
従来の汎用モデルでは幅広い質問には対応できても、特定の企業や業界に特化した問い合わせに対する正確な回答は難しいとされていました。しかし、一定の精度を保ったモデルに企業特有のFAQやこれまでの問い合わせデータを追加することで、専門的な内容にも対応できるLLMの構築が可能です。
また問い合わせ業務を手作業で行うのは手間とコストがかかります。LLMで自動化すれば、営業時間外でも顧客の質問に対応できます。24時間稼働も可能なため、時間を問わず迅速な問題解決ができる上、人件費の削減にも期待でき、企業により良いメリットをもたらすでしょう。
従業員もルーティンワークから解放されることで、より価値の高い業務に集中して取り組めるようになります。業務効率が上がるのはもちろん、従業員のスキル向上やキャリア形成にもつながり、結果として社内全体の満足度や生産性の向上を実現できます。
LLMのファインチューニングは、社内の業務効率化や情報提供の質向上に役立ちますが、一方で以下のような課題もあります。
ファインチューニングは、データの準備に手間がかかる傾向があります。
既に学習を済ませているモデルに追加情報を足し、特定の分野に適応させるため、全体を見れば効率的なやり方ではあります。しかし、用意したデータの量が少なかったり、質が悪かったりすると、モデルの機能性が低下してしまう恐れがあるのです。
用意するデータの量は業界や用途、目的によって異なりますが、おおよそ数千から数万必要です。量が少なくても適応できる可能性もありますが、前に学習したことを忘れてしまうリスクもあります。
とはいえ、各ソースからデータを集めるのは大変な作業です。質の良いデータをどこから集めるのかを話し合い、リソースを確保した上でファインチューニングに取りかかりましょう。
特定のデータに偏る現象、つまり過学習が起こる可能性があるのも課題の一つです。過学習とは、モデルが学習したデータには高い精度で応答できる一方で、新しいデータや異なる状況に対して適切に対応できなくなる現象です。
例えば、特定の顧客層や条件に偏ったデータで学習させた場合、他の顧客層や異なる条件では不正確な回答を生成する可能性があります。このような状況では、顧客のニーズを満たす回答を提供できず、情報の鮮度が落ちるリスクも発生します。特に専門性が問われる業界で過学習が起こると、重大なミスにつながる恐れもあるため注意しましょう。
過学習の原因は、主にデータ量が少ないことやデータの幅が狭いことが挙げられます。データは幅広いソースから収集し、一定の量を保ちましょう。また正則化技術や適切な学習時間の設定も、過学習を抑えるために有効な手段です。
LLMのファインチューニングは効果的な活用が期待される一方で、導入コストが高く、実装までに時間もかかる点が課題として挙げられます。
精度の高いLLMを生み出すには、大量の計算リソースや専門的な知識を持つ人材が必要です。試しにLLMを使いたい場合でも、ある程度のコストを投資しなければ実態がつかめないでしょう。
またデータの準備やモデルの調整、テストを行うプロセスには多くの時間がかかり、実装予定に遅れる可能性もあります。さらに運用後もモデルの精度を維持するためのメンテナンスが継続的に必要で、これらの費用と時間を見込んだ計画を立てなくてはなりません。
LLMのファインチューニングをスムーズに進めるためにも、以下のポイントを意識して計画を進めましょう。
回答精度を高めるためにも、高品質で鮮度の良い学習データを収集しましょう。
LLMは、与えられたデータを基に回答を生成します。学習データに誤情報が紛れていると、ユーザーに間違った情報を提供するリスクがあります。例えば、LLMが答えられない質問をされた際に「分かりません」と応答できず、データの中にある情報からまるで正しい回答かのように見せかける可能性があるのです。誤情報を提供してしまうと、ユーザーの問題解決に至らない可能性があります。
特に医療や金融、法律などの人の命や人生に大きく関わるような分野では、データの正確性や信頼性が重要です。特定の用途や分野の業務を効率化するためにも、鮮度が良く信頼性のある情報源から取ったデータを与えましょう。
ファインチューニングを導入する目的をチーム内で共有しましょう。目的が不明瞭なまま作業に取りかかると、各チームの間で認識のずれが発生し、効果的な運用が難しくなります。学習済みのLLMに何を覚えさせたいのか、どういった機能を追加してどのような業務をこなしてほしいのかなどを細かく設定しましょう。
またLLMの開発や運用には、多くの場合データサイエンティストやエンジニアだけでなく、業務担当者や経営層も関わります。各チームの共通認識として目的を定めることで、全員が同じ方向性でプロジェクトを進めやすくなります。自社のビジネスで効果的に機能するLLMを作るためにも、まずはチーム内で導入目的を共有しましょう。
ファインチューニングを始める前に、運用体制を整えましょう。効果的に運用していくには、専門的なスキルを持つ人材の確保が不可欠です。
LLMの学習やデータの品質管理、ハイパーパラメータの設定などのステップでは、システムを問題なく動かせるエンジニアが必要です。他にも、正確で鮮度の良いデータを構築する情報収集力を持つ人材や、統計学などを理解できるスキルを持った人材を確保しなければなりません。
さらに、導入にはコストがかかります。費用対効果を高めるためには、短時間で効率的に運用する仕組みを整えることが重要です。自社に必要な人材がおらず、リソースの確保も厳しい状態であれば、クラウドサービスの利用や外部の専門家への依頼も検討しましょう。
LLMのファインチューニングを実施すると、自社のビジネスや業界に特化した回答精度の高いモデルが構築できます。医療や金融、製造などの特に高い信頼性が求められる業界はもちろん、日常的なタスク業務やルーティンワークの効率化も期待できます。過学習やデータの質・量などに注意しながらプロジェクトを進めていきましょう。
LLMを基にした社内チャットボットの導入やファインチューニングに悩みを抱えている企業のご担当者さまは、ぜひシナリオ不要のamie AIチャットボットをご検討ください。
amieなら、手間のかかるシナリオやFAQを準備する必要がなく、既存の社内ドキュメントを学習データとして活用できます。
学習にかかる時間は最短約3分な上、2ステップで完了するため、効率的な業務改善をお考えの方にも役立つでしょう。